愛の惑星、金星

Venere, pianeta d’amore

venere3暑中お見舞い申し上げます!皆さん、いかがお過ごしでしょうか。さて、シエナでは恒例のパリオ祭のシーズンとなり、暑い、そして熱い夏に突入しました。ホットな7月のお便りは、太陽系で一番熱い惑星、金星Venereをテーマにお送りしたいと思います。

金星は太陽系で最も熱く、そして最も明るく輝く惑星です。地球から観察できる一番明るい恒星はシリウスですが、金星は最大でその12倍にあたる明るさで瞬き、太陽や月のように昼間も肉眼で観察できることがあります。天空できらきらと光る金星は古代から人類を魅了し、東西の文化に多大な影響を与えてきました。例えば、楔形文字で書かれたバビロニアの古い文献には金星の太陽面通過の観察記録が残され、金星はメソポタミア神話の愛と戦の女神イシュタルの名前で呼ばれていました。また、マヤのように金星の軌道計算を組み込んだ複雑な暦を発達させた文明もありました。

venere1日本語では金星を「明けの明星、宵の明星」とも表現しますが、古くから「あかほし、ゆふつづ」と二つの名前でも呼んでいます。世界には、夜明けと夕暮れの金星を2つの異なる星であると考えていた文明がたくさんありました。古代中国では明けの明星を啓明、宵の明星を長庚と呼び分けたり、ピタゴラス以前のギリシアではポースポロス(Phosphoros)、ヘオースポロス(Heosphoros)と呼んだりしていました。古代ローマではギリシア語からそれぞれLucifer、Hesperusとラテン語に訳され、のちにイタリア語で明星を指す文学用語Lucifero、Esperoとなっています。

venere2現代イタリア語で金星はVenereです。古代ローマの愛と美の女神ヴィーナスVenusに由来し、空に光り輝く端麗な姿からその名がつけられたと言われています。女性のシンボルマークとしても使われている「♀」は、もともと天文学で使われる金星のシンボルで、ヴィーナスの手鏡が基になっています。

優美に輝く金星は、大きさや重さが地球と似ていることから地球の双星とも呼ばれる惑星です。しかしその環境は地球とはまったく異なり、現在も観測が困難とされている惑星の一つです。金星は大気圧がとても高く、濃硫酸の雲で覆われています。大気は約96%が二酸化炭素、3.5%ほどが窒素で構成され、二酸化炭素による温室効果で地表の平均温度は約470℃にも上ります。自転のスピードは地球の243日にあたり、公転のスピード(224.7日)より遅いため、金星の1日は1年よりも長いことになります。また、太陽系で唯一逆の方向に自転している惑星なので、金星では太陽が西の空に昇り、東に沈みます。

venere5さて、望遠鏡を使って最初に金星を観察したのは、イタリアが誇る天文学の父ガリレオ・ガリレイでした。1610年末にケプラーへ宛てた書簡には、金星が「 va mutando le figure nell’istesso modo che fa la Luna… (月と同じようにその姿を変えている)」と記され、ガリレオは金星の満ち欠けを世界で最初に観察したとされています。そして、金星の大きさが変化することから地球と金星の距離は一定でないとし、地球と太陽の間に位置する金星は太陽の周りを動いていると唱えました。さまざまな天体の観測を通して地動説に言及したガリレオは、当時の教会勢力から異端とみなされて宗教裁判にかけられています。宇宙の真実を科学的に探求するガリレオのひたむきな情熱は、まさに星々の輝く天空のように壮大なロマンでした。

venere4今月はロマンチックな夜空のお祭り、七夕の月。織姫様や彦星様も、愛の惑星Venereの輝きを眺めながら夜空で楽しく語らったのかもしれません。梅雨も明けぬ暑いあつい夏ですが、雲のない夜は星空を眺めながら愛する人と夕涼み、という粋な暑気払いはいかがでしょうか。

*当記事は2016年7月に、公益財団法人 日伊協会のサイトで紹介されています。