平和と調和が都を築く

La pace e la concordia hanno edificate tutte le città

5. Città di Sienaこんにちは。梅雨空のもとお天気はすっきりしませんが、みなさん元気にお過ごしでしょうか?さて、今回のお便りでは、concordia(調和)という美徳をテーマに取り上げたいと思います。人と人のつながりが希薄になり競争的な個人主義が広がる現代において、私たちは「他者と和する」という徳についてあらためて考えてみる必要があるのではないでしょうか。

今年度のお便りのキーポイントになっている14世紀のフレスコ画『Allegoria del Buon Governo(善政の寓意)』。その中で作者アンブロージョ・ロレンツェッティはどのようにconcordiaの美徳を描いたのでしょう。女神の姿をしたConcordiaは木材を削る道具のかんなを膝に乗せ、正義の女神に仕える二人の天使からのびるロープを手に握り、そのロープをシエナ市民の手に渡しています。24人のシエナ市民は異なる服装を身にまとい、フレスコ画の中で一番大きく描かれた王様(シエナの町)の足元に並んでいます。シエナ市民のバラバラの服装は異なる職業や境遇の人々がシエナに集まっていることを表し、かんなは異質なものを平たく平等にするシンボルとして描かれています。つまり、シエナの町には異なるバックグラウンド、興味、利害を持つさまざまな人間が住み、皆が正義のもと平等に調和して暮らすことで偉大な都市国家シエナが成り立っている、という寓話が描かれているのです。


このように『善政の寓意』の中では調和の女神Concordiaがとても重要な役割を担っていますが、その隣に描かれたもう一枚のフレスコ画『Effetti del Buon Governo in Città(都市における善政の効果)』の中でもconcordiaの大切さが繰り返し強調されて2. Effetti di buon governo in cittàいます。絵の中央で踊る女性は、平和的な共生に不可欠とされるconcordiaを象徴していると言われています。イタリアの諺に「La pace e la concordia hanno edificate tutte le città(平和と調和がすべての町を築いた)」とあるように、ロレンツェッティのフレスコ画は「市民の調和は平和とともに町の繁栄に欠かせない大切な徳である」と説いていました。

現代イタリア語の名詞concordiaは、感情などの一致や調和を意味します。語源はラテン語の形容詞concorsから派生していて、もともとは「結合」という意味を付加する接頭辞con-と「心」を意味する名詞corが組み合わさっています。Concordiaと大文字で始まるとローマ神話の調和の女神(ギリシア神話のハルモニアにあたる)をさします。古代ローマでは女神Concordiaは調和と共同体の神として崇められ、紀元前3世紀頃には現在のローマに複数の神殿が建立されていました。また、ローマ帝国時代にはその姿が多くの硬貨に刻印されていました。女神Concordiaは丈の長いマントをまとい、手にオリーブの枝やパテラと呼ばれる酒杯、豊穣の角(コルヌコピア)、伝令使の杖(カドゥケウス)を持った女性の姿であらわされています。

3. Shotokutaishi遠く離れた日本でも、古くからconcordiaの大切さが説かれていました。聖徳太子が7世紀につくったといわれる日本最古の成文法「十七条憲法」。その第1条「和を以て貴しと為す」はその極みで、他人と調和して生きる大切さについて言及しています。外国から新しい文化が伝わる中、複数の価値観を認めて平和的に共存することを人々に説いたのです。

グローバリゼーションの時代といわれる現代。平和国家として繁栄し、これからも平和な世界の発展を望む私たちは、古人にならって他者への理解や寛容、他者との調和といった大切な徳を忘れないよう努める必要があるのではないでしょうか。La pace e la concordia hanno edificate tutte le città. 千代の繁栄を願い、平和も調和もしっかりと心に刻んでおきたいものです。

*当記事は2015年6月に、公益財団法人 日伊協会のサイトで紹介されています。